ANVIL JAPAN TOUR 2019 ANVIL インタビュー

Interview by Mirai Kawashima

5年ぶりの来日公演が盛況のうちに幕を閉じたアンヴィル。20年2月にはニュー・アルバム『Legal at Last』のリリースも控えている彼らにいろいろと話を聞いてみた。


― 昨夜のショウはいかがでしたか。

リップス:最高だったよ。本当に良かった。

ロブ・ライナー:素晴らしかったね。愛をたくさん感じた。

― セットリストはどのようにして決めているのですか。たくさんのアルバムをリリースしているので、決めるのも簡単ではないと思うのですが。

リップス:進化していくんだよ。自然とね。ずっと演奏している曲は古くなって、新しい曲に置き換えられる。過去の曲を復活させることもある。これはあまりやらないけどね。

ロブ:昨晩も「School Love」を復活させた。

リップス:「School Love」は日本でシングルとして発売されただろ。だから、日本に初めてアンヴィルを知らしめた曲として、この曲を復活させようと思ったのさ。

― 何度もアンヴィルのライヴは見ているのですが、「School Love」は初めて見ました。初めて聴いたアンヴィルの曲が「School Love」だったし、代表曲の1つのように感じていたのですが。

リップス:実はそれは日本だけの現象なんだよ。日本では7"EPになったからね。

― 最近しばらく3人編成を貫いていますよね。

ロブ:俺たちはずっと3人編成だったよ(笑)。

リップス:真面目な話、4人でやっていたときも、3人だったようなものなんだ。レコーディングのときに、セカンド・ギタリストは何も演奏しないなんていうこともあったし。というのも、2人のギタリストがプレイしているのをヘッドフォンで聴きながらやると、タイトに演奏するのが難しいんだよ。セカンド・ギタリストのチューニングが少し違っているとか、リズムが多少ずれているとかで、ロブも大変なんだ。3人でやった方がずっとやりやすいね。セカンド・ギターは、いつもあとから付け加えるというやり方をしていたし、結局それもすべて俺が弾くということもあった。別のギタリストが俺と同じようにプレイをしようと試みても、別人であるわけだから、フィーリングやサウンドも多少は異なったものになる。タイトにはならないんだ。これはレコーディングをやってみればすぐにわかる。何時間もかけてセカンド・ギタリストにタイトなプレイを強いるのは本当に苦痛でさ。結局最後はギターを貸してくれ、俺が弾くから、ということになってしまうんだよ。セカンド・ギタリストのギターとアンプ、つまり彼のサウンドで、俺がプレイすると完璧にタイトな演奏ができたからね。今の時代、そんなことをしなくても、ProToolsなんかで簡単に修正ができてしまうけど。タイミングを調整してタイトにしてしまえばいいのだから。だけど、俺は自分のやり方が気に入ってるんだ。

― トリオは見栄えもいいですしね。

ロブ:俺としてはバンドをやるならトリオしか考えられない。パワートリオさ。人が何を言おうと、俺には関係のないことだ。

リップス:音楽を頭で聴いているファンはいっぱいいるみたいだけどね。「これはギターが一本だね」なんていう調子で。何でそんなことをいちいち指摘するんだろう。何か違いはあるのだろうか。実際セカンド・ギタリストを加えたときは、悪夢に終わってしまった。俺とは違うフィーリングを持っているし、どうやってプレイしていいかわからない感じだったから、俺が指示をしなくてはいけなかったし。だったら自分でプレイをすればいいだけ。『This is Thirteen』を作っているときは、セカンド・ギタリストはリハーサルにも現れなかった。レコーディングでイギリスに行っても、結局彼はバッキング・ギターを一切演奏しなかった。で、ソロだけやったのだけど、それに3日もかけやがってさ。たったの20秒のソロに3日だよ!俺はアルバム全部のギターを1日で仕上げたというのに。

ロブ:それで俺たちも学んでね。3人が良いという結論に達したんだ。

リップス:セカンド・ギタリストをクビにしたあと、ベーシストはそのままにしていたのだけど、ところが彼は全然ダメだということがわかってきた。セカンド・ギターがなくなってしまうと、そのベースでは音がスカスカなんだよ。声も酷かったし。で、結局彼にも辞めてもらった。クリス(ロバートソン)こそが真の、3人編成でやれるベーシストさ。クリスは指だけでなく爪も使って演奏をするから、音にハードなエッジがある。ピックで演奏するみたいなね。クリスのベースとロブのドラムが合わさると、「ワオ!」という感じさ。それに彼はヴォーカリストとしても素晴らしい。セカンド・ギターがなくても、クリスがベースをプレイすれば何かが欠けている感じがしないというだけでなくて、彼がマイクに向かって歌えばオーマイゴッド、これが最近のアンヴィルに欠いていたものだとわかった。初期、デイヴ・アリソンがセカンド・ギターを弾いていたころは、彼がバッキング・ヴォーカルもやっていて、それが一つの大事な要素になっていた。クリスが入って、その要素が復活したんだ。ベースプレイも素晴らしいし、ヴォーカリストとしても素晴らしい。さらにそのプレイが、ロブのドラムとも完璧にマッチしている。すべてがそこにあるわけで、もはやこれ以上のものは何も必要ないのさ。

― 昨日MCでチャック・ベリーの名を挙げていましたが、そもそもヘヴィな音楽との出会いはどのようなものだったのでしょう。

ロブ:ブラック・サバス。グランド・ファンク・レイルロード。

リップス:カクタス。

ロブ:カクタスはいいね。あとディープ・パープル。

― 78年にバンドを結成したころは、どんな音楽をやろうと考えていたのですか。アンヴィルのようなスタイルをやっていたバンドは、他にいなかったと思うのですが。

リップス:ディープ・パープルを聴いていて、俺たちはその速い曲に魅かれたんだ。「Flight of the Rat」、「Hard Lovin’ Man」、「Speed King」や「Highway Star」なんかを俺たちのやり方でプレイしていくうちに、自然とこういうスタイルになったんだよ。

ロブ:そう、自然とね。考えたり計画したりしたわけではない。

リップス:ディープ・パープルの曲から受けた印象を、俺たちなりに解釈しただけ。何か新しいことをやっているなんていう意識は当時はなくて、それはあとからわかったことなんだ。ただキッズが好きなことをやっていただけで、人とは違うことをやっているなんで気づかなかった。店にいってバイブを買ったときも、「よーし、これは世界中が驚くぞ」なんて考えていたわけではない。ただ、何も考えずにやっただけなんだよ(笑)。

― バイブを買ったきっかけは何だったのでしょう。ガールフレンドのためだったのですか。

ロブ:(笑)

リップス:いやいや、そうじゃない。ファースト・アルバムは、全曲女性、そしてセックスのことばかりだったから。「School Love」から「Bondage」まで全部ね。だから、何かそれに関連することをやろうと思って、マイクスタンドにブラやパンティをぶら下げたり。それで「そうだ、バイブだ!あれなら音をギターのピックアップに拾わせたりできる」と思って、3ドル持ってバイブを買いに行ったんだよ。やってみたらみんなびっくりしてね。大成功だと思ったものさ。

― 当時あなたがどうやってバイブを使うのか、友人と言い争いをしたことがあります。ピック代わりなのか、それともバイブで弦を押さえるのか。結局両者とも正しかったのですが。

リップス:ボトルネックとしても使えるし、これで弦を叩くこともできる。ハンマリングにも使える。

ロブ:バイブの音自体もピックで拾えるしね。

リップス:ほら、バイブだぞって見せびらかすのではなくて、音楽的に使えるというわけ。きちんとした目的があるんだよ。だからうまくいったのさ。

― 昨晩のステージでは、レミーとのクレイジーなエピソードを紹介していましたね。80年代当時、色々と滅茶苦茶な体験をされたと思いますが、一番クレイジーなエピソードを教えてもらえますか。

リップス:レミーとのエピソード?

― レミーに限らず、どんなことでも構いません。

リップス:クレイジーなエピソードかあ。(笑い始める)カモン、男ってやつはさ、わかるだろ?ある時、ホテルの部屋に女の子たちがやってきたんだ。とてもバッド・ガールでね。ロード・クルーの1人が、その女のブーツの片方を盗んだんだ。というのも、その子がクルーの誘いを拒んだんだよ。で、そのブーツの中にウンコをしてさ、椅子の脚をはずしてブーツの中でウンコをかき混ぜて。さっとウンコを捨ててしまえないようにね。

ロブ:きっとその子はブーツをはいてしまって、「何なのこれ!」なんて叫んだんだろうね。

リップス:そしておそらく彼女は警察に電話しただろう。だけど、その頃には俺たちはもうすでに遠くの街に行ってしまっていたから手遅れ。まったくクレイジーな話だよ。そうそう、こういうこともあった。ある時ゴルフ・クラブみたいなところで演奏をした。すごく綺麗な所で、プールもあって。ちょうどファースト・アルバムが出た直後だったので、俺たちは自分たちのオリジナルだけを演奏したんだ。そしたらバーのオーナーがやってきて、「明日はレッド・ツェッペリンを演奏しろ。そうじゃないとお前らはクビだ。」なんて言いやがった。俺は「はいはい、わかりましたよ」なんて答えたんだけど、ローディはプールに入っていってさ、ウンコをした。奴ら、プールの水を全部入れ替えなくちゃいけなかっただろうね。

ロブ:(大爆笑)

― そのローディは自由自在にウンコができる人だったんですね。

リップス:(笑)。彼は本当に本当にクレイジーだったよ。

― リップスはモーターヘッドに、ロブはオジーのバンドに誘われたことがよく知られています。他にも著名なバンドからの誘いはあったのでしょうか。

リップス:リストは無限にあるよ。今でもロブを誘うバンドは多い。

ロブ:そうだね、プロジェクトをやろうとか声をかけられることは多いよ。だけど、何というのかな、俺はニール・パートみたいなものさ。俺はエクスクルーシヴなんだよ。簡単には手に入らない。それが俺のやり方なんだ。興味がないからね。まあヘヴィなブルースをプレイするとか、クレイジーなことならやってみてもいいけど。

リップス:それにその音楽を気に入らないと。お金がどうのとかではなく、プレイする音楽にどれだけ好きになれるかだから。

ロブ:大切なのは愛情と情熱だよ。お金なんて下らない。アートである以上、誠実さが必要なんだ。

リップス:俺も同じさ。俺はリップス。俺はアンヴィルなんだよ(笑)。だから、他のところでやる必要なんてないんだ。ソロアルバムにしても同じ。これまでに18枚ものアルバムを作ったのだから、今更ソロアルバムをやる必要もない。

― しかしモーターヘッドに誘われて、まったく心は動かなかったのですか。即断ったのでしょうか。

ロブ:そう、すぐに断った。だって俺はアンヴィルだから(笑)。アンヴィルがモータ〜ヘッドに加入するというのは訳がわからないだろ。最終的にレミーが俺をリスペクトしてくれたのは、俺が誘いを断ったからさ。最初は彼も怒ってた。だけどじっくり考えて、後にこう言ってくれた。「お前は正しい。お前は自分のこと、お前のハートにあるものをやるべきだ。リスペクトするよ」ってね。それで彼が亡くなるまで、俺たちはずっと良い友達だった。お互いをリスペクトしながら。もちろんモーターヘッドに加入することもできた。俺のバックグラウンドはロックンロールだし、レミーはまさにロックンロールの権化だろ。レミーはアンヴィルを見て、そこにニュージェントやロックンロールの影響を感じたのだろう。だから誘ってくれたのも理解できる。だけどモーターヘッドは俺の居場所じゃなかったんだ。歌という俺のアイデンティティの半分を捨ててまでやることではなかったのさ。それにその時『Forged in Fire』用の曲作りの真最中で、契約もあったから、さっとバンドを辞めて別のバンドに入るということも不可能だった。バンドの仲間を置いて去っていくなんて、やるべきことではないよ。誘われたことは誇りに思っているしハッピーに思うけど、受け入れることはできなかったのさ。

― アンヴィルの映画は大ヒットになりましたが、あれはまったく新しいものでしたよね。普通はいかに自分たちがロックスターであるかをを強調するものなのに、あなたたちは現実をそのまま見せました。

ロブ:そう、俺たちは真実の姿を見せたのさ。俺たちがどういうバンドであるのか、そのままを見せた。それしかできなかったからね。結果として、あのあとどのバンドも映画を作り始めただろ。俺たちからインスピレーショを受けてさ。まったく突然にさ(笑)。現実を見せることを恥ずかしいとはまったく思わなかったよ。

リップス:そう、恥ずかしいなんてことはないよ。だってあれが現実なんだから。

― バンドをやっていれば、少ない観客でやらなくてはいけないこともあるというのが現実ですからね。

ロブ:その通りさ。

リップス:それにお客さんが多いか少ないかなんて、まったくどうでもいいことなんだよ。10人相手であろうと10000人相手であろうと、お客さんを楽しませるためにプレイをするわけなのだから。彼らはバンドを見るためにお金を払ってくれているんだ。そして自分たちも楽しむチャンスなわけだよ。スイッチを入れて、さあアンヴィルをやるぞって。それが一番大事なんだから。「今日はお客さんが少ないな、いつものようにやるのはやめよう」なんて、バカげているよ。

ロブ:「今夜は適当にお茶を濁すか」なんて言ってね。

リップス:そうそう、お茶を濁すなんて絶対にダメだ。それにもう1つ、お客さんの中に誰がいるかわからないということもある。

ロブ:そう、レコード会社の人間が見てるかもしれない。

リップス:レコード会社の人間、プロモーターも見ているかもしれない。プレスの人間もいるかもしれない。そのコンサートを見て、「こいつらは凄い、5人相手に25000人の観客がいるかのような素晴らしいプレイをした」なんて書いてくれるかもしれない。それを読んだ人たちが、「このバンドはカッコいいな」と思うかもしれないだろ。ステージにが大好きということが大切なんだよ。自分自身も含め、誰のこともガッカリさせてはいけないよ。

― 今のヘヴィメタル・シーンについてはどのようにお考えですか。

リップス:あまりに細分化されすぎていると思う。

ー サブジャンルが増えすぎ?

ロブ:サブサブサブサブ、と永遠に続く感じでさ。

― 80年代の方があらゆる点で良かったと思いますか。

ロブ:80年代?

― ええ、ヘヴィメタルの全盛期はやはり80年代だというのが一般的な認識かと。

ロブ:80年代そのままのサウンドを出している若いバンドもいるよね。最近一緒にプレイしたのだけど、何というバンドだったかな。エンフォーサー?ストライカー?

― そういう系統のバンドはサウンドだけでなく見た目も80年代ですよね。

:そう、完璧に80年代だよ。80年代を蘇らせようとしているんだ。それはつまりヘヴィメタルにとって、80年代が最良の時だったということなんじゃないかな。

― 来年にはニュー・アルバム『Legal at Last』がリリースになります。

クリス・ロバートソン:とても素晴らしい内容だよ。前作『Pounding the Pavement』を気に入ってくれたのなら、新作も気に入るはずさ。サウンドはもちろんアンヴィルそのもの。成熟したアンヴィルのサウンドが聞けるよ。

ロブ:リップスのヴォーカルも最高だよ。

リップス:そう、2年前に禁煙したんだ。おかげで大きな違いを感じる。とても大きな違いをね。80年代よりもうまく歌えるよ(笑)。

ロブ:それに歌詞も、とても社会的なものになっている。これも自然とそうなったんだ。

リップス:何しろ世界がこんな状況だろ。「Plastic in Paradise」という曲が入っているけど、これは俺たちが生み出すプラスチックゴミについてさ。バイオ的に分解することができないから、大量に海に漂って、分解されずに何千年もそのまま。人類は自分たちがしていることに注意を払ってこなかったけれど、今その代償を払わなくてはいけないのさ。

ロブ:タイトル曲は、カナダでついにマリファナが合法になったことについて。天使がボングを吸っているカバーはすでに大きな話題になっていてね。新聞の見出しにもなったんだ。

リップス:確かにこの曲はマリファナの合法化についてだけれど、それを賛美しているわけではないよ。

ロブ:そう、マリファナを推奨している訳ではない。

リップス:それがもたらす良い面についても悪い面についても責任を持たなくてはいけないということ。一面的に良いとか悪いとか言えないのさ。それはアートワークにも示されていて、表は天使だけれど、裏には悪魔が描かれている。良い面も悪い面もあるということだよ。

― 判断はリスナーが自らしろということですね。

ロブ:そういうこと。

リップス:そう、良い面も悪い面もあるということさ。ドラッグを始めることは良いことだろうか?まあそんなわけはないよな。本来人間は、ただ生きていることを楽しむべきだ。アルコールやタバコ、さらにはマリファナなどやらず、ただ生きていることでハッピーであるべきだ。だけど、俺たちはどうしてもそこに何かを加えてしまう。アルコールやタバコというリストに、今回マリファナが加わったわけだよ。それは必ずしも良いことではない。

ロブ:さらに、「Legal at Last=ついに合法」というのは俺たち自身のことでもある。

リップス:そう、「このバンド良いね」とやっと認めてくれる、みたいな意味でね。俺たちはずっと犯罪者、アウトサイダーみたいに感じてきているし。

― あなたたちのお気に入りのアルバムを3枚教えてください。

ロブ:それは難しいな。

リップス:俺はディープ・パープルの『In Rock』。ブラック・サバスの『Masters of Reality』。あとは、キャプテン・ビヨンドなんてどうだろう?

ロブ:モントローズのファーストとか。

リップス:グランド・ファンク・レイルロードのレッド・アルバムか『Closer to Home』。カクタスの『One Way…or Another』。

ロブ:65年から75年の間にリリースされたものは全部素晴らしいよ(笑)。

リップス:レインボーの『Rising』も大好き。

クリス:俺はプログレが好きだから、ちょっと系統が違う。イエスの『Drama』。ラッシュの『Moving Pictures』。それからブラック・サバスの『Heaven and Hell』。

― では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

ロブ:俺たちは日本が大好きだよ。

リップス:その通りだね。世界で初めてアンヴィルを好きになってくれた日本のファンの前でプレイできるというのは最高だよ。

ロブ:日本はいつ来ても本当に素晴らしい国さ。

クリス:日本に来るのも、日本でプレイするのも大好き。アンヴィルのツアーで初めて行った国も日本だしね。だから日本に帰ってこられたという感じなのさ。

リップス:それにクリスのガールフレンドは日本人なんだよ。



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